「ねぇ、お父さん、どこに行くの?」

5歳になる息子が聞いた。

「ぼくらの一家はね、九州だよ。九州の宮崎だね」

「そう。飛行機で行くんだよね!飛行機楽しい!」
「そうだよ」

息子の目が輝いた。そしてさらに聞いた。

「で、いつお家に帰ってくるの?」
「わからないな。ずっと行ったままかもしれない」
「いま、冬休みでしょ?冬休み終わったら帰ってくる?しんちゃんと約束してるんだ!」
「なんの約束だい?」
「帰ってきたら、ここで一緒に一晩、<がっしゅく> するんだって」
「そうか。でも。。。」

ぼくは一瞬、帰ってこられないことを息子に言うべきかどうか迷って口ごもった。そして言った。

「帰って来れたらね、って言うことさ。しんちゃんにもそう言っておいてな」

息子は、困った顔をしたが、一瞬の後、言った。

「わかった」

その日、私達一家は、荷造りをして、宮崎に行くことになっていた。

日本政府の新型コロナウィルス第二波対策だ。

「新型コロナウイルス禍」の第一波は、2020年7月に収束した。本来であれば、東京オリンピックが開かれているはずだった時期だ。日本の季節は「夏」になり、いつもの蒸し暑い日々になって「高温」「多湿」の気候となり、毎日の気温は36°Cを中心に上がり下がりしていた。そして、ウィルス感染者がかなり減った。しかし、2020年の秋から、感染者と、感染による死亡者がまた増え始めた。そこで、日本政府は、国民を以下に分け「移住」による日本国の存続に舵を切った。南北に長い「日本列島」ならではの「感染対策」だ。

まず、2020年12月31日現在、ウィルスに罹患していない人や家族(第一種日本国民)は、九州以南の地域に、年始から移動を始める。仕事はリモートで行うことを前提とする。同時に、ウィルスに明らかに感染していることが、PCR検査はじめ、各種の検査でわかっているけれども、無症状の人(第二種日本国民)は、福島県より北の地域に移動。そのため、郡山市には臨時日本国政府が作られた。これも人事院で感染・無症状者を選んで送り込む。さらに、感染して症状が出ているが軽い者とその家族(第三種日本国民)は、北海道札幌市周辺に移動。さらに症状が重篤な者(台4種日本国民)は、帯広市と函館市に巨大な、数万人規模のサナトリウムを突貫工事で作り、そこに収容することになった。帯広市や函館市の住民も、この振り分けで、日本の各地に散らばる事になった。

東京には首都機能は残し、東海道の端と端の大阪までは首都機能は残すが、在住できるのは、政府関係者と大企業の社員と関係者のみで、ウィルスに罹患していないことが条件だ。大阪は「副首都」の名称を新たに与えられ、もしも東京が使えなくなったときに政府が移動できる体制をつくる。また、副首都大阪の周辺の兵庫県、京都市などは、大阪の扱いに準じる。

また、これらの各地域の行き来には、「国内パスポート」が発行され、それぞれの地域の移動を行う。移動のさいは、PCRはじめ各種の検査を必須とし、問題ないと認定された者だけが行き来できる。

中国は、この日、遺伝子創薬技術と量子コンピュータ技術をベースとしたAI技術を駆使して、新型コロナウィルスを完治させる新薬「新世紀」の完成を世界に向けて発表し、日本にも最初の500万人ぶんを供与する、とした。また、最初の治験用の1000セットを、米国・ジョンズホプキンス大学に寄贈し、臨床試験を依頼した。人種間での遺伝子の違いなどに対応できるかどうかを調べるためだ。


以上、日本の近未来のフィクション(作り話)。だが、そうならないことを切に祈る。