たとえば、電車で腰掛けているあなたの隣に、明らかに中国語らしい言葉で会話しているカップルがいるとする。あなたは、自分は人種差別をする人間ではない、と思っていても、その場に長くいる、という選択をするだろうか?あなたは中国語を聞いてもわからないし、友人には中国人もいる。

2020年早々に、中国・武漢での新型コロナウィルスによる風邪のような症状のウィルス性感染症が発見され、中国国内はもとより、日本、韓国、タイ、米国でも感染者が報告され、かつ世界中に広がりつつあり「パンデミック(広範囲流行病)」となりはじめた。最初、動物からヒトへの感染が確認された後、ヒトからヒトへの感染も確認され、死者も出た。この状況が毎日、日を追ってマスコミでも多く報道される。

しかも、中国と言えば世界に散らばる華僑がいる。もちろん、台湾などは中国ではない、とは言うものの、台湾人の平均的な多くの人たちは中国語・北京語でしゃべる。日本人のほとんどは、中国語を喋る人を「大陸中国人」「台湾人」という見分けをつけられない。電車の席で隣で中国語を喋るカップルが中国人であるか、台湾人であるかの見分けは、日本人のほとんどはつかない。

あなたが人種差別を忌み嫌う感性を持っていたとしても、あなたはその場を離れることになるかも知れない。「中国語を話す人=新型コロナウィルス感染者」ではないが、あなたは、やがて、中国人の友人をさえ、忌避することになるかも知れない。

大陸中国の政府の国家主席である習近平氏は、1月20日に「断固感染を止める」宣言をした。しかし、「感染を止める」宣言が有効であるとは、多くの人が思っていないだろう。しかも習近平氏の話を良く聞くと「中国国内」の話が主なようだ。しかし、ウィルスには国境がなく、多くの大陸中国人は昔から国境を超える「華僑」が多くいることで知られており、目前、今年は1月24日に大晦日となる、春節(旧正月)には、多くの中国人が集団で国内を移動するばかりでなく、多くの華僑も大陸中国に戻り、そして、春節が終わると、平時に生活の基盤を持っている世界各地に再び帰っていく。その中の少なからぬ人が、新型コロナウィルスの感染者(中国国内での二次感染者、三次感染者も含む)ではない保証はない。

華僑を擁する多くの国や地域とその周辺の地域の人が「中国人」に警戒をする。当然だが、それは中国一国のみならず、世界の経済活動にも「それ」は大きな影響を及ぼすだろう。各国の政府とも、空港など国境の水際での感染者発見と隔離に多くの時間とマンパワーを割き始めている。それでも、ウィルスは見えない。パンデミックが一度起これば、あるいはその徴候が見え隠れしたその時点で、それは世界経済に大きな影響を与える可能性が高い。そして、感染者ではないと確認された人であっても、これまでの人種差別ではない人種差別も、また増えていくことだろう。

人は一人で生きているのではないから「人間とは社会的動物である」という言葉がある。人が集まって作る会社、国、学校。おおよそ人の集まる組織や集団でも、その組織や集団だけで生きているわけでもない。それぞれが相互に作用しあって、現在の生を紡いでいるのだ。であれば、こういったパンデミックは、一国の中での話、と軽く見ることはできない。対岸の火事の火の粉は目の前に降ってくる。